高級な着物と安価な着物の違い
着物と接する機会が少ない方とお話しすると、「着物」すなわち「高価」、という印象をお持ちの方が多いように感じます。ですが、探せば安価な着物もたくさんあります。
そういう意味では、選択の幅が広がっていますね。
では、リーズナブルな着物と、高級と言われる着物は、どこが違うのでしょうか。
いろいろあるとは思いますが、大きな違いとして、次の3つを挙げられます。
1、手間隙の差
2、生産ロット数の差(一点ものと大量生産)
3、こだわり感(生地・色・柄など)
○高級着物は時間と手間のかけ方が違う-
高級な着物の特徴を、まず一点、挙げるとすれば、一流の技をもった「人」が、手間と時間をかけて作ったものである。ということです。
こうした着物には、圧倒されるような美しさと力強さがあります。
完成までに、何人もの職人さんが関わる場合もあれば、一人でこなされる作家さんの場合
もあります。
京友禅や大島紬など、分業制で有名です。それぞれの工程にスペシャリストがいるのです。
その一つ一つの工程が、高い技術を要求されるものだからです。
例えば、先染めの手織りの反物などは、織り上げるという一つの工程だけでも、熟練の職人さんが一反を織るのに、数か月かかることも珍しくありません。
機織りは力仕事でもあるうえ、織りあげる絣模様が細かいほど、大変繊細で緻密な仕事になります。
(上)結城紬の地機(下)大島紬の絣合わせ
出典
その織機に糸をかけ、経糸を整えるだけでも大変な手間です。織物の種類によって、千本から数千本の糸を整えるのです。
もちろん、その前段階にも図案制作や糸繰りなど、様々な工程があります。
手間隙がかかればかかるほど、必然的に価格は上がります。
簡単な例を挙げると、一度染めより二度染め、二度染めより三度染めの方が高価な染物になることは、お分かりいただけるでしょう。
そのため、時間と手間のかかった一級品の着物は、高額になることが多いのです。
ですから、手仕事の労力を省けば、値段を抑えられます。
友禅染めでは、手描きの糊糸目よりも、型を用いる型糸目の方がリーズナブルです。
型糸目では、色を指すのは人の手によりますが、下絵と糊置きの作業を簡略化しているのです。
型の数を節約するために、一枚の訪問着を染めるのに、同じ型を何度も使って染めていきますので、デザインの自由度は手描きよりも下がります。
また、技術の進歩によって、プリント(捺染)の小紋などは、かなりお手頃になりました。
ここで申し上げておきたいことは、お値段の高額な品が必ずしも良い品であるとは限らないということです。
いくら手間隙をかけても、作り手の知識と技術が確かなものでなければ、質の良い品物にはなりません。
これは着物に限らず、何においてもそうであると思います。
逆に、ほどほどのお値段で、質の良い着物もたくさんあります。
ただ、工芸品・美術品と評してもよいような高級な着物となりますと、やはりそれなりに高価になります。
それだけの技術と時間が注ぎ込まれているからです。
なかには、一年をかけてようやく完成するほどの着物もあります。
神業のような手仕事の成果には、本当に魅了されてしまいます。
○一点ものと大量生産
高級着物の特徴に、一点ものが多いことがあります。
その工程の多くが手仕事であるため、大量生産に向いていないのです。
下の写真は、絞り染めのために、絹糸で括って防染しているところです。
一つ一つ、すべて手で括っていきます。
出典
この疋田絞りのように、定番の色柄で同じものを作っている、ということはあるでしょうが、基本的にロットで数十・数百、というような作り方はしていません。
反対に、短期間で同じものがたくさん生産できれば、単価が下がることは、ご存じのとおりです。
先に触れた、捺染の技術は、同じものを何反も作るのに向いています。
高級着物と安価な着物は、この点で対極にあります。
また、高級着物は、手仕事であるがゆえに、同じようにしようとしても、全く同じものにならないとうこともあります。
よく言われることですが、例えば、江戸小紋の細かい染めでは、機械プリントの模様はどこをとっても同じです。
しかし、手仕事の型染めを見ると、どんなにズレなく染めてあっても、温度があるのです。均一な模様だからこそ、差が際立つのです。
同じものがないということは、それだけで特別な感じがしますね。
○高級着物はこだわりがいっぱい
一級品の着物は、ぱっと見た瞬間に引き込まれるものがありますが、それはたくさんのこだわりがあるからです。
触れるとなお、わかります。
生地の心地よいことといったらありません。
その着物や帯が最高に引き立つ素材を選び、柄の構図、色選びから、組み合わせる技法まで、そのセンスは一線を画しています。
それはやはり、安価な着物にはないところです。
こんな素晴らしい着物を選ばれたら、裏地やお仕立てにもこだわっていただきたいものです。
こだわりと言えば、オーダーメイドのお誂えをお願いすることもできますね。
○まとめ
普段着にできそうなお手頃価格な着物と、着るだけでパワーをもらえそうな高級着物は、どちらがよいというわけではありません。
違いをよく知って、その上で場面や状況に合わせて選んでいただきたいと思います。
何より、ご自分が楽しめなければ意味がありません。
10年後に、この着物に使われている技が存続しているかしら。と、不安になるような現状があります。
けれど、素晴らしい手業の着物や帯、そして和装小物が、今、作られていることも確かです。
一人でも多くの方に、見て、知っていただきたいと願ってやみません。
参考サイト
伊藤康子のきものライフコンサルティング
染めの天才 坂井教人先生のきもの
振袖 日本を代表する本格糸目友禅作家 滝沢晃
手描友禅作家 遠峰 聖明先生の訪問着
30代の30万円までのおしゃれ着物コーディネート
【 結 城 屋 】きもの講座5 きものの見分け方と価格について
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